『戦雲』基地があるから守れるのか、基地があるから攻撃されるのか

目指すべき平和とは、国と国の戦力が均衡状態のことなのか、どの国にも戦力がない状態なのか。江東区が人口54万人ではなく、100人だったら投票率はどのくらいになるか。補欠選挙の後に改めて考えさせられたドキュメンタリー映画。

人口1700人の与那国島、石垣島、宮古島を中心に、基地問題について考える。今回は、沖縄本島にある米軍基地より、沖縄返還後に米軍と行動を共にし、南西諸島で拡大する自衛隊の駐屯地や弾薬庫、ミサイル基地の設置の是非について、島民の感情や運動などを通して展開してゆく三上智恵監督のドキュメンタリー最新作。

前作『沖縄スパイ戦史』『標的の村』では、丁寧な取材やインタビュー、歴史的文献の調査で何度も見たい内容だったが、今回は、より幅広い視聴者を獲得できる内容に。基地賛成派や自衛隊側にもインタビューし、一方向からの意見の提示から、ある程度多角的視点から問題を捉えられるような工夫。さらに、離島好き、島嶼学や民俗学を学んだ人も楽しめる場面をふんだんに盛り込み、かつストーリーの展開上必要な要素にもなっている。

南西諸島には尖閣があり、台湾や中国に近く、保守系メディアもあり、沖縄本島より議会も保守系が強いことは予め抑えておきたい。

投票率の話になるが、島民にとって政治や安全保障は生活にもろに影響されるものであり、無関心も無関係でいられることも許されない。住民投票を実現する会や住民説明会に参加する人の知識も相当なもの。デモでは政治家より鬼気迫る市民の演説の方が圧倒的に上手いし響く。
参加型民主主義の理想系。

政治とはいったい誰のためにあるべきなのか。右でも左でもなく、一部の人の政治ではから、草の根からの民主主義、対話と共感の政治を志すすべての人に観てほしい。島巡りの前の予習としても。