下山事件が断片的な知識に有機的結合をもたらす

NHKの総力を結集した取材。オッペンハイマーとサンジエの回もそうであったが、アメリカの公文書は後々公開されるので、戦前や占領下の事件や政治的判断、密約などはどんどん明らかになる。遡って訴追できないが、日本の歴史は変わる。再構成される。

戦後の未解決事件は、子どもの頃に観た「帝銀事件」ばかりに目が行っていたが、今回の「下山事件」の真相が明かされたことにより、今まで国内、世界で得た断片的な歴史的知識が次々と有機的結合をし始めた。731部隊や『沖縄スパイ戦史』で明らかにされた陸軍中野学校あたりが犯人や黒幕としてよく挙がるが、これは明らかに米軍。

朝鮮戦争直前の日本。冷戦がはじまる占領下の日本で行われた数々のスパイ工作。もう一度、ワシントンDCにある国際スパイ博物館を訪れたい。シベリア抑留と帰還兵。日系アメリカ人と強制収容と暗号解読。国鉄の人員整理、労使対立。次々と個々の史実が結合してゆく。

当時の状況で、最も押さえておくべきは、戦後は食糧がなく、誰もが生きるために必死だった。食べることがなによりも優先だった。生きるためにできることはなんでもした。国としても、家族としても、人としても、自分の力でどうしようもないことが圧倒的に多かった時代。ふと、占領下の日本で実施された人口抑制策や戦争孤児、江東区東陽町が昔は日本で2番目の遊郭「洲崎」であったことと米軍の接収、函館大門の赤線と売春防止法などさまざまなことを思い出しながら観た。

『昭和天皇拝謁記』『火葬場に立つ少年はいったい誰か』と並ぶほど個人的に興味深いNHK作品でした。