『シモーヌ-フランスに最も愛された政治家』から考える「多様性の中の統合」

フランスに最も愛された政治家、女性初の欧州議会議長となったシモーヌ・ヴェイユの自伝的作品。先に伝えておきますが、自伝としても映画としても傑作です。妊娠中絶法、刑務所の待遇改善、移民に寛容な社会、エイズ患者への支援、保育士の待遇改善など功績を上げればキリがない。予告を観て、中絶法だけを取り上げ、日本でいう「志賀暁子裁判」のような展開で終わるのかと思っていたが、良い意味で予想は外れた。もっと重層的で示唆に富むストーリーであった。

映画のポイントはただ一つ。シモーヌの政治の原点である「アウシュビッツ強制収容所での体験」をどう描くか。そのためか、自伝ではよくありがちな幼少から時系列で進めてゆくことはせず、場面転換により、アウシュビッツとつなげてゆく見せ方。しかもアウシュビッツの体験を直接描かずして終わるのかと思っていたが、一つも省くことなくすべて描ききった。それを冒頭ではなくクライマックスに持ってきたのが素晴らしい。そして最後には、歴史を直視した政治的な主張。2時間20分と長いがまったく飽きがこない。時代を共有した『サッチャー』とも『RBG』とも違うシモーヌの壮絶でいて幸せな人生。全体主義を忌避するあまりの民主主義への強い想いは、やはり体験をしている者にしかわかりえない。アーレントを読み直す。また、アウシュビッツの作品として、『シンドラーのリスト』だけでなく『ショア』を観ておくことをおすすめする。最後に前置きなく出てくる。ショアは、フランス語でホロコーストのこと。フランス、EUの戦後史を知る上でも勉強になる非常に完成度が高い作品。

私は実話や史実に基づく作品しか観ないのですが、傑作の部類に入ると考えます。特に、社会を変えたいと思っている人は必ず観るべき作品。

「生きるの、不幸は定めじゃない」
「記憶が形がなく言葉で受け継がれるものだ」
「私はEUの設立で20世紀と和解した」

ヴェイユ夫妻の名言の数々は巻き戻してすべてメモしたい。